各草花の説明


草花とそれを詠んだ万葉集の歌


蕗 フキ
万葉集 : 春菜として詠まれる
食用

万葉集 巻8-1427 山部赤人 : 明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ
梅 ウメ

万葉集 巻5-815 紀男子 : 正月(むつき)立ち 春の来たらば かくしこそ 梅を招(を)きつつ 楽しき終へめ [大貳紀卿]
菫 スミレ
山菜、種子と根茎に毒成分あり

万葉集 巻8-1424 山部赤人 : 春の野に 菫摘みにと 来し吾ぞ 野を懐かしみ 一夜宿(ね)にける
サクラ 桜 バラ科 
万葉集表記 櫻
写真は小金井公園の大島桜

万葉集 巻20-4361 大伴家持 : 桜花 今盛りなり 難波の海 押し照る宮に 聞こしめすなへ
油菜 アブラナ 別名:菜の花 
万葉集名: 茎立(くくたち)

万葉集 巻14-3406 作者不詳 : 上野(かみつけ)の 佐野の茎立 折りはやし あれは待たむゑ 今年来ずとも

注。くくたちはアブラナ科全般を指す
狗尾草 エノコログサ 猫じゃらし 
分布: 全世界の温帯に分布 縄文時代前半迄は無し 粟の原種 食用可

万葉集 巻14-3364 作者不詳 : 足柄の 箱根の山に 粟蒔きて 実とはなれるを 粟なくもあやし
立葵 タチアオイ
万葉集名 葵 あふひ (立葵説あり)
利用 : 薬用として導入説あり、現在は観賞用

万葉集 巻16-3834 /作者不詳 : 梨棗(なつめ) 桼(きみ)に粟つぎ 延(は)ふ葛の 後(のち)も逢はむと 葵(あふひ)花咲く 
 
昼顔 ヒルガオ
万葉集名 かほばな

万葉集 巻8-1630 大伴家持 : 高円の 野辺のかほ花 面影に 見えつつ妹は 忘れかねつも
藪蘭 ヤブラン
万葉集名: 山菅 やますげ(説あり)

万葉集 巻11-2456 柿本人麻呂 : ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ
榊 サカキ(斑入り) 
万葉集名 賢木 サカキ

万葉集 巻3-0379 坂上郎女 : ひさかたの 天の原より 生まれ来る(あれきたる) 神の命(みこと) 奥山の 賢木の枝に 。。。 (長歌)
楓 カエデ
万葉集名 蝦手 かへるで 

万葉集 巻8-1623 田村大嬢 (だいじょう) : 我が宿に もみつ蛙手 見るごとに 妹を懸けつつ 恋ひぬ日はなし
萱草 カンゾウ 萱は中国で忘れるの意あり 
万葉集名: 忘れ草

万葉集 巻11-2475 柿本人麻呂歌集 我がやどは 甍しだ草 生ひたれど 恋忘れ草 見るにいまだ生ひず
欅 ケヤキ 
万葉集名 槻 ツキ

万葉集 巻3-0277 高市黒人 : 遠(と)く来ても 見てましものを 山城の 高の槻群 散りにけるかも
母子草 ハハコグサ 御形 ゴギョウ 
万葉集名 和草 にこぐさ(ハハコグサ説あり)
食用 春の七草の御形

万葉集 巻11-2762 作者不詳 : 葦垣の 中の和草(にこぐさ) にこやかに 我れと笑(え)まして 人に知らゆな
ヒオウギ 檜扇 (ぬばたまは本種の実)

万葉集 巻6-0925 山部赤人 : ぬばたまの 夜のふけゆれば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く

この写真は花の裏側。表に黒ごまあり。
注意。ヒメオウギ水仙は外来種 フランス産 姫扇水仙、佐賀県で移入規制種指定、栽培禁止。
蛇の髭 ジャノヒゲ
分布: 日本・東アジア・フィリッピンまで 
万葉集表記 夜麻須我、山菅 (ジャノヒゲ説あり)

万葉集 巻20-4483 大伴家持 : 咲く花は 移ろふ時あり あしひきの 山菅の根し 長くはありけり
苔 コケ 
万葉集表記 蘿

万葉集  巻6-0962 葛井広成 : 奥山の 岩に苔生し  畏くも 問ひたまふかも 思ひあへなくに
皐月 サツキ
万葉集表記 石上乍自 いはつつじ

万葉集 巻2-185 日並皇子の舎人 : 水(みな)伝ふ 磯の浦廻(うらみ)の いはつつじ 茂(も)く咲く道を また見なむかも
テイカカヅラ 定家葛 藤原定家に由来 
万葉集名 岩綱 いわつな

万葉集 巻6-1046 作者不詳 : 岩綱の またをちかへり あをによし 奈良の都を またも見むかも)
蓬 ヨモギ  
万葉集表記 余母疑
分布: 日本・朝鮮 キク科多年草 蓬餅とモグサの素 

万葉集 巻18-4116 大伴家持 : 大君の任(ま)きのまにまに 取り持ちて 仕ふる国の … あやめぐさ 余母疑(よもぎ)かづらき 酒みづき … (長歌)
露草 ツユクサ
万葉集名: 月草 
薬用: 鴨跖草(解熱、下痢止め)、食用

万葉集 巻4-0583 大伴坂上家乃大娘 : 月草の うつろひやすく 思へかも 我が思ふ人のの 言も告げ来ぬ
山吹 ヤマブキ

万葉集 巻8-1435 厚見王 あつみのおおきみ : かはづ鳴く 神奈備川に 影見えて 今が咲くらむ 山吹の花
紫陽花 アジサイ
万葉集表記 安治佐為
薬草で毒草 日本原産

万葉集 巻20-4448 橘諸兄 : 紫陽花の 八重咲く如く 弥(や)つ代にを いませわが背子 見つつ思(しの)ばぬ
屁糞葛 ヘクソカズラ
万葉集名: くそかずら

万葉集 巻16-3855 高宮王 : かはらふぢに はひおおとれる くそかづら 絶ゆることなく みやづかへせむ
犬稗 イヌビエ  ヒエの原種。

万葉集 巻11-2476 作者不詳 : 打つ田には 稗はしあまた ありといへど 選(えら)えし我れぞ 夜をひとり寝る
犬蓼 イヌタデ アカマンマ
万葉集名: 蓼
分布: 日本・アジア温帯熱帯

万葉集 巻16-3842、平群朝臣 : 童ども 草はな刈りそ 八穂蓼を 穂積の朝臣が腋草を刈れ
鉄葎 カナムグラ
分布: 日本・中国・朝鮮 
万葉集表記 牟具良

万葉集 巻19-4270 橘諸兄 : 葎延ふ 癒しき宿も 大君の 座さむと知らば 玉敷かましを
葈 カラムシ
万葉集名: 蒸し むし
万葉集時代は繊維の材料

万葉集 巻4-0524; 藤原麻呂 : むしぶすま なごやが下に 伏せれども 妹とし寝ねば 肌し寒しも
野菊 ノギク 
万葉集名 : 百代草 ももよくさ (野菊説あり

万葉集 巻20-4326 壬生部足国(みぶのたりくに:現静岡掛川の防人) : 父母が 殿の後方(しりへ)の 百代草 百代いでませ 我(わ)が来るまで
白膠木 ヌルデ 
万葉集名: 可頭乃木 かづのき

万葉集 巻14-3432 東歌(相模) 足柄の わを可鶏山のかづの木の 我をかづさねも かづさかずとも
羊歯 シダ 
万葉集名: 子太草

万葉集 巻11-2475 柿本人麻呂歌集 我が宿の 軒に子太草 生いたれど 恋忘れ草 見れどいまだ生いず
薄 ススキ
万葉集名: 尾花 をばな

万葉集 8-1564 日置長枝娘子 : 秋づけば 尾花が上に 置く露の 消(け)ぬべく我は 思ほゆるかも
山桑 ヤマクワ  (桑)

万葉集 14-3350 作者不詳 : 筑波嶺の 新桑(にいぐは)繭の 衣(きぬ)はあれど 君が御衣(みけし)し あやに着欲しも 

(にいぐわ:桑の新芽)
榎 エノキ
万葉集名: 榎 え

万葉集 16-3872 作者未詳 : 我が門の 榎(え)の実(み)もり食(は)む 百千鳥(ももちどり) 千鳥は来れど 君そ来まさむ
タブノキ 椨 
万葉集表記: 都萬麻 つまま

万葉集 巻19-4159 大伴家持 : 磯の上の つままを見れば 根を延(の)へて 年深かりし 神さびにけり
マユミ 真弓 
分布:日本・中国  弓の材料

万葉集 2-96 久米禅師 : みこも刈る 信濃の真弓 わが引かば 貴人(うまひと)さびて 否と言はむかも
野イチゴ類 
万葉集名: 壱師 いちし イチゴ説あり

万葉集 巻11-2480 柿本人麻呂歌集 : 道の辺の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ  我が恋妻は
椚 クヌギ
万葉集: 橡 つるばみ

万葉集 巻18-4109 大伴家持 : 紅(くれない)は 移ろふものそ 橡(つるばみ)の 濡れにし衣に なほ及(し)かめやも
檜 ヒノキ 
万葉集名: 桧 ひ

万葉集 巻7-1118 柿本人麿 : いにしへに ありけむ人も 我が如(ごと)か 三輪桧原に かざし折りけむ
マダケ 真竹 
万葉集名: 竹 多毛 太気

万葉集 巻9-1677 作者不詳 : 大和には 聞こえも行くか 大我野の 竹葉刈り敷き 廬り(いおり)せりとは
くず 葛 

万葉集 巻14-3422 作者不明 上つ毛野(かみつけの) 久路保(くろほ)の峰(ね)ろの 葛葉がた 愛(かな)しけ子らに いや離(ざか)り来る

くろほ=赤城山
ヤマノイモ 山野芋 
万葉表記: 冬薯蕷(ところ)

万葉集 巻7-1133 作者不詳 皇祖神(すめろき)の 神の宮人 ところ蔦(づら) いやとこしくに 我れかへり見む
ニラ 韮 中国原産のネギ科多年草 草本 
万葉集名: ククミラ 茎韮

万葉集 巻14-3444 作者不詳 東歌 : 伎波都久(きはつく)の 岡のくくみち 我れ摘めど 籠(こ)にも満たなふ 背なと摘まさね
きはつく は地名、茨城真壁郡説あり
カシ 樫 
万葉集表記: 可新 かし

万葉集 巻1-0009 額田王 : 静まりし 浦浪さわく 吾が背子が い立たせりけむ 厳(いつ)可新が本(もと)
フヨウ 芙蓉 分布 日本・中国 
万葉集: 朱華 はねず 芙蓉説あり

万葉集 巻11-2780 作者不詳 : 山吹の にほへる妹が 朱華色の 赤裳(あかも)姿 夢に見えつつ
ハギ 萩 
分布:日本東アジア・西アジアなど、山萩と園芸種あり
万葉集で最多141首とも142首とも

万葉集 巻10-2125 作者未詳 春日野の 萩は散りなば 朝東風(こち)の 風にたぐひて ここに散り来(こ)ぬ
ヒガンバナ 彼岸花 別名 曼珠沙華 
毒草 中国原産 史前渡来と考えられている。
万葉集: 壱師(いちし)はヒガンバナ説あり

万葉集 巻11-2480 柿本人麻呂 : 道の辺の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我が恋妻は
イタドリ 疼取 
万葉集: 壱師(いちし) はイタドリ説あり 
世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000)

万葉集 巻11-2480 柿本人麿 : 道の辺の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我が恋い妻は
ボケ 木瓜 バラ科 
万葉集: あしび 馬酔木、木瓜説あり

万葉集 20-4511 三形王 : 鴛鴦(をし)の住む 君がこの山斎(しま) 今日見れば 安之婢(あしび)の花も 咲きにけるかも
をし : おしどり
チカラシバ 力芝 
万葉集: 芝草はチカラシバを含む 説あり

万葉集 巻6-1048 田辺福麻呂 : たち変わり 古き都と なりぬれば 道の芝草 長く生ひにけり)
ツリガネニンジン 釣鐘人参 キキョウ科 
万葉集: 三枝(さきくさ)

万葉集 巻10-1895 春されば まづさきくさの 幸くあらば 後にも逢はむ な恋ひそ我妹(わぎも)
ワレモコウ 吾亦紅

万葉集: 見当たらず
源氏物語 匂宮の巻 文中に記載あり